¢序話¢


 青い空!
 白い砂浜!
 蒼い海!
 燦々と輝く太陽!
「……ってそんなにテンションを無駄に出来るかぁ!」
 実際、俺がいるのは歩くとキュッキュと音がするくらいの綺麗な砂浜だ。
 何故キュッキュとなるのかなんてのは単純に鳴き砂だからなんだろうが、鳴き砂は綺麗な浜辺でしか有り得ないというからここが綺麗だってことの証明にはなる。
 目の前にあるのは海。
 水平線の彼方まで、遊泳客はおろか人工物というものが全く見えない。
 空。
 見上げると目が痛くなるくらいの厳しい陽光。
 吸血鬼が光が嫌いだという気分もわからなくない気がしてくる。
 日焼け止めは塗ったが、それでも多分、明日になったら焼けた皮膚がむけるだろう。
 基本的に弱い自分の肌が恨めしい。
 砂浜に寝転がってもいいんだが、生憎俺は水着を着てるわけじゃなく、Tシャツを着たまま。
 このまま砂浜に寝転がったらザラザラして後が面倒だ。
 時計は……無い。
 太陽の位置から時間を考えようとしても、よくわからない。
 概算というか大体、十一時から二時くらいだろうとは思う。
 正確な時間がわからないというのは、不便と言えばまぁ不便なのかもしれないが、たまには良いと思う。
 何者にも、それこそ時間にすら縛られない自由など、少なくとも日本では味わうことが出来ない。
 ってか、それなりにくつろいでおいて今更ではあるが、俺はここがどこなのか知らない。
 ここが地球の一般的な常識の通じる場所であるならば、赤道付近か、あるいは南半球だろう。
 何故なら、今は二月中旬、日本では冬も真っ最中の状況だし。
「ふぅ……」
 こんなに強い太陽光をずっと浴びていたら日射病で倒れかねない。
 久々に使うので準備をしなきゃいけないという二人を置いて先に出てきたものの、綺麗な砂浜とは言っても一人で来ても楽しくはない。
 やっぱり呼びに行こうかと思い、すぐそこにある一軒のログハウスへと歩き出す。
 すると、タイミングが良いのかそうでもないのか、ログハウスのドアが開く。
 中から出てきたのは二人の少女。
 二人とも身長は高くはないが、低いというわけでもない。女子としては平均的な辺りだろう。
 一方は、腰ほどまである黒の長髪をポニーテールにまとめ、服装は水色無地のワンピース水着、頭には麦藁帽子。ついでにスタイルも良い。
 容貌と立ち振る舞い、服装がこの白い砂浜とも相俟って、イイトコノゴレイジョウといった雰囲気が感じられる。
 そして、それに続いて出てくるもう一人の少女。
 着ているのは一瞬沈黙してしまう白のセパレート水着。黒髪の少女に負けないほどに長い銀色の髪が、時折吹く海風によって揺らぐ。
 色素の薄い感じはあるが、儚さという言葉とはあまり縁が無い。
 知らずに見られればどきりとしてしまうような、人懐こい笑みを浮かべている。
 どちらも驚いても仕方が無いほどの美少女だが、黒髪の少女から受けるのは清楚、銀髪の少女から受けるのは快活の、珍しいほどに対照的な印象。
 そんな二人が、キュ、キュ、と鳴き砂を鳴らしながら近づいてくる。
 昔からちっとも信じていなかった天上のカミサマに、心の中で敬礼。
 世の男達の――特殊な嗜好を持ち備えている人々以外の――ほぼ全てが羨むだろうこの状況。
 ふわり、と。
 黒髪の少女の麦藁帽子が風に吹かれて宙に舞う。
 それを追う少女の姿は、実に絵になっていた。
 麦藁帽子といえば――
 不意に、彼女と出会った時のことを思い出す。
 全ての発端は、俺がまだ、知ってもあまり得をしない、世界の真実というものを知らなかった頃に遡る。


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